09/10藤沢通信vol.3 正絹反物の無地染めの物語
藤沢3日目。
お昼時、昨年ワンピースをお買い求め頂いたお客様が入らした。
「この夏は、あれで快適に過ごせたわよ。洗うと泥のような色が出るのね。それで、とってもきれいな青になったわ」と、うれしいことをおっしゃってくださった。
それから商品を物色なさり、すこし体の大きな方なので、ベストとブラウスを特注なさった。
これだけで、最低目標の売上を達成させていただいたけれど、この百貨店はこういうところ。
数は少ないけれど、私たちにとって良いお客様がいらっしゃる。
携帯電話に、名古屋のお客様から電話が入っていましたので、こちらから掛けさせていただいた。
「届いた反物を見ました。感動して涙が出てきた」とおっしゃってくださった。
それを聞いた私も、涙が出てきた。
この正絹の反物には、物語が詰まっております。
一年かかる約束でお預かりした。
ところが、工房を引っ越さなければならなくなり、染めるに染められず、一年が過ぎた。
新しい工房が出来、ようやく染め始めたけれど、糸の質の問題もあってなかなか藍が染まらない。
正絹の反物を無地に染めるには、気をつけることがある。
それは、染める度に藍を定着させること。
色が落ちて、帯が青くなる様ではいけませんからね。
これが、なかなかに根気がいる。
反物を斑が出ないように藍に浸け、それをしっかり二度洗い、しばらく水に浸けて置いてから天日干しして乾かしてからまた水に浸け、繊維の間だから空気を完全に抜いて、また染める。
一日に一度か二度しか藍甕に入れられないし、天気の時しか染めることが出来ない。
それを一年続けたけれど、色が着かない。
お客様に説明したけれど、「なんだかんだ言って、本当は染めていないんじゃないの?」と疑われてしまった。
そこで、名古屋に途中経過の反物を持って行ってお見せして、納得いただいた。
そこから半年後、気が付くと斑が出てしまった。
原因は様々だけれど、これを消さなければならない。
必死で方法を考えてまた染めだし、洗い、半年ほどかかって見た目はきれいに染まり上がった。
それをまた洗い、天日干しし、また洗い、天日干しをし、というのを繰り返し、また何度も染めと洗いを繰り返して、今年の春、ようやく染め上がった。
今年の夏に、名古屋にお持ちしたけれど、お客様はお見えにならなかった。
お電話したけれど、だれも出ない。
仕方なく、持ち帰った。
名古屋の百貨店の担当者に、このお客様から「五年も前に頼んだ染め物が、まだ届かない」と電話が入ったらしい。
クレームになってしまった。
この間の経過は、染めた私にとっては、筆舌に尽くしがたい物だったから、こちらからお電話して説明させていただいたけれど、染め上がった物をお見せしなければ、それを解れと言うのも無理だろうと思い、送らせていただいた反物だったのです。
それをご覧になって「感動して涙が出てきた」とおっしゃってくださった。
多分、そういう色に染まってくれたのだろうと思う。
これこそ、甲斐があるというもので、私も久々に涙が出てきた。
長い書き込みになりました。
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