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2010年5月22日 (土)

藍の匂い

 「藍の匂い」と題しましたが、蒅(すくも)の匂い、藍液の匂い、藍染めの匂いと三つあります。
 
 先ずは、蒅(すくも)の匂いについて。
  
 蒅(すくも)とは、藍草の葉に水を打って寝かせ、100日の間に十七回程切り返し、堆肥のように醗酵させたものを言います。これを杵でうち固め、立方体の形に切ったものが、いわゆる藍玉と言われるもので、藍染めの原料です。

 この善し悪しを、その昔の阿波の国では「手板法」などの手法で決めた。出来上がったすくもを水で練り、加賀和紙に擦り付け、太陽光線を通した色で品質を判断したのです(現在は、どんなものであれ、一律同一値段となっており、等級はありません)。では現在、何を持って善し悪しを判断できるかといえば、匂いです。
 
 出来上がった蒅(すくも)は、醗酵が完熟したものが良いもの。完熟したものにはアンモニア臭は含まれず、土のような良い香りがいたします。フライパンで乾煎りすると良くわかる。これは、堆肥も同じです。完熟したものは、アンモニア臭が出ません。これでおおよその良し悪しがわかる。   

 次に、藍液の匂いについて。

 建てはじめは臭います。しかし、醗酵が落ち着き、手入れをしっかりとしますと、匂いがほとんどしなくなります。したとしても、嫌な匂いはなく、良い香りがいたします。魚の腐ったような妙な匂いがするのは還元剤を使用しているから。そうでなくても匂いのきつい染め液は、何か余計なことをしているという事です。

 私の工房では、大きな甕のある染め場で、お客様がお菓子を召し上がりながらお茶を飲んでいらっしゃるし、お弁当を食べる人もいます。私どものように自然発酵の世界におりますと、そうでないものとの違いは匂いで直ぐに分かります。 

 最後に、藍染めの匂いについて。

 やはり匂いはほとんどいたしません。
 私が展示会をしていますと、首をかしげるお客様が多い。何故かと聞くと、藍染の匂いを感じないからだそうです。それほどに、今の藍染は臭く、私の藍染は匂わない。

Photo_90宮崎市での展示の様子。
藍甕を持ち込んで、染めの実演もしました。
私の甕を見て「建ってないね」とおっしゃた染め師が来た。

 いつぞや、藍染の世界では有名な方が工房にいらっしゃった。某県の無形文化財。ドアを開けて入るなり、首を傾げた。
 「匂いだな」と思った私は、染場にお連れして藍甕のふたを開けると、「これは建っていないね」とおっしゃった。匂いが無い上に、染液の表面に藍の華が無いからでしょう。
 そこで、布を染めて色があることをお示しし、アルパカの広幅の藍染をお見せし、灰汁の取り方から、藍建ての方法全てを語りました。

Photo_89アルパカを織った広幅の生地の藍染。
天日干しをしています。

 その方は、灰汁を使った本建てのイロハもご存じありませんでしたが、日本の藍染はこういう世界であることに、私は長い間直面してきているのです。
  
 染める世界がそうなのですから、使う世界も同じです。

 以前、日本の仏教の世界で、ある宗派(禅宗)を代表する大本山の老師とお話しする機会がありました。立派な藍染めの衣をお召しになっていらっしゃいましたが、私から見ればどういうものかは分かります。 

 連れて行った人が、私を藍染め師だと紹介すると、老師は「これも藍染めでしょうが、洗えば洗うほど枯れて良い色になると皆さんに言われる」とおっしゃった。

 私は黙っておりましたが、何か表情が語っていたのでしょうか、老師が「え?」という顔をなさった。

 そして、「また、匂いが独特ですな」とおっしゃっても、私は黙って聞いておりました。

 そうしますと老師は、「世の中には、なかなか本物には出会えないと言うことは分かりますが、これもやはり、本物とは言えないいのでしょうかね」と私におっしゃる。

 私が、お持ちした藍染めを老師に差し上げ「匂いを嗅いでみていただけますか」と申し上げると、匂いを嗅がれて不思議そうな顔をなさった。匂いが無いからでしょう。

 「たぶん、色落ちもいたしませんし、色の褪めもないかと存じます」と申し上げた。

 「ほう!?不思議なこともあるものですな」とは老師。

 まるで禅問答のようでしたが、後は余計なお世話ですから、「どうか、お使い下さいませ」とそれを差し上げ、お茶を頂いて帰って参りました。

 普段でも、私の藍染めの匂いを嗅ぎ、不思議そうな顔をなさるお客様が沢山いらっしゃいます。藍甕があれば、染液に鼻をつけんばかりに近づけて匂いを嗅ぐ人がいる。この間は、染液に勝手に手を入れて匂いを嗅いでいました。
 それでも、匂わないものは匂いません。 

 藍染めは、色落ちに対しても誤解がありますが、匂いも同じでしょう。 

追記
 ネットを調べてみましたら「徳島藍特上品すくも」という記述がありました。無いものがあるというのは、どういう事でしょうか?
 世の中、不思議なことが多いけれど、特にネットの世界はそうです。いや、ネットの世界だからこそ、明らかにされてしまうということもあるかもしれません。

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コメント

昨年は何回か遊びに行かせて頂きありがとうございました。
徳島藍特上品すくもを使っていた経緯があり、2010年5月20日の記事の徳島特上品すくもがないという記述に興味を持たせていただきました。
浅草の染料屋で購入したもので佐藤さんの藍と教えていただきましたが徳島藍特上品すくもはこういうものだという決まりがあるということですか?
お返事お待ち申し上げます。

徳島の蒅には、客観的評価がないという事です。値段も組合で決めた同じ値段。ですから「徳島藍特上品すくも」というのは存在しないわけです。佐藤さんの蒅が他の藍師のそれより優れているなど、根拠もありません。

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