浅葱
(甕覗きに続いて)
白州正子さんは「甕覗き」を、「そこはかとない浅黄」とも「澄みきった浅黄の色」とも、美しく表現なさっている。「浅黄」は「あさぎ」と読むけれど、「あさぎ」には「浅葱」もある。はてさてどういうことなのか。
白州正子さんは「甕覗き」を、「そこはかとない浅黄」とも「澄みきった浅黄の色」とも、美しく表現なさっている。「浅黄」は「あさぎ」と読むけれど、「あさぎ」には「浅葱」もある。はてさてどういうことなのか。
源氏物語の「乙女(おとめ)」に、その「あさぎ」が出てきます。
《浅葱(あさぎ)にて殿上に帰りたまふを 大宮は 飽かずあさましきことと思したるぞ ことわりにいとほしかりける》
与謝野晶子はここを、「源氏は長男に四位を与えることはやめて、六位の浅葱(あさぎ)の袍(ほう)を着せてしまった」と訳していますが、当時、藍染の色は宮中の官位を表していた。「浅い」は「薄い」の意で位は低く、「深い」は「濃い」で位が高くなる。
他にも「あさぎ」を「浅葱」と表現することの方が多いので、藍染の「あさぎ」は、「浅葱」が正しいようです。
「浅葱」は、「浅いネギ」という事ですが、私は、「ネギが土から顔を出した頃の、緑掛かった薄い青味」だと解釈しております。
いずれにしても、商品となる一番薄い藍染めの色を、一般に「浅葱」と云うようです。「浅葱」は元服の儀式に着る色でもあったそうですが、それは、藍染の色の中で、商品となる一番薄めの色で、初めて一人前になることに通じていたからでしょう。
では「浅黄」とは如何なる色か。
文字通りとすれば、「薄い黄色」という意味の大和言葉で、これもまた美しく感じます。漢語で現すと「淡黄色(たんこうしょく)」と味気ないものになる。日本語のすばらしさがわかろうというものですが、藍の色も同じで、化学建てでは出せない色というもの沢山があるのです(つまり、藍が染まればよいというものでは無いわけです)。
江戸時代の百科事典ともいうべき「守貞漫稿」には、「浅葱色を『浅黄』の文字を用いたとしても黄色ではない」と書いてありますが、そのくらい、浅葱と浅黄の混同が江戸時代にもあったようです。ですから、白州正子さんが「浅黄」と書いたのも宜なるかなということだと思います。
ところが、江戸時代の人は、これを放っておかなかった。浅葱は「あさぎ」として、では「浅黄」をどう表現したかと云えば、「うすたまご」とした。すばらしい言語感覚だと私は思います。
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