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2018年2月24日 (土)

甕覗き

 (以前書いた藍染で一番薄い色と言われる「甕覗き」について、加筆してまとめてみました。)
 
 甕覗(かめのぞき)とは、藍染めの色の中で、一番薄い色のことを言います。物の本によれば、「藍甕を覗く程度に、さっと染めた薄い藍色という意味」とありますが、この短い文章の中に、色々な問題が含まれている。
 
 「藍染め」は、「染め」とあるけれど、所謂染色とは性質が違い「付着」です。つまり、藍は布や糸について、それが酸化して青色になるので、染み込む事がない。
 
Aihimo         紐を藍染めしたものですが、表面は染まっていても、藍は中に染み込みません。
 
 藍は、液の中に数パーセントしかいませんから、布や糸に満遍なくつけるには、時間と回数が必要です。たとえ生きの良い、若い建てたばかりの藍の液だって、さっと染めただけでは、色むらが出てしまう。ましてや、藍が少なくなった年老いた液ならなおさらです。
 つまり、藍染めにおいては、つける時間と回数は絶対です。それは、堅牢度(染めの強さ)についても言えることなのです。ですから薄い色も、時間と回数を掛けて染めなければなりません。
 
 藍染の液に入っている様々な雑物(灰汁など)は、美しい藍の色を出す伝統的藍建てには絶対必要ですが、酸化の邪魔をします。それがついていると、その部分は酸化できません。ですから藍染めは「洗い」が大切なのです。
 若い藍の液は、灰汁をものともせずに酸化しますから、手間が掛かりません。年を取れば取るほど酸化する力も弱くなり、洗いの手間が掛かる。ある時期から紺屋は、それを下染め用に使うようになる。これも、甕の数が必要な所以でもあり、斑無く染めるためでもあるのです。
 
 以上は私の経験上の言葉ですが、「藍甕を覗く程度に、さっと染めた薄い藍色」は私は出すことは出来ません。時間と回数を掛けて、美しいと言われる藍の薄い色を出すことは出来ます。プロですから。
 
 さて、「甕覗き」はどうやって出すのか。
 時間と回数を掛けて出すのです。
 「甕覗き」の色を出したことがあるかと言えば、ありません。
 何故かと言えば、藍染めが生業だからです。
 
 
 秋田に刺し子をなさっている女性がいらっしゃる。その世界では名の通った方。
 もう十何年も前になるけれど、彼女が栃木の我がふる里においでになり、鬼怒川温泉までご一緒した。山を歩くと、道々に生えている草花の名を本当によくご存じで、無知な私に一々解説なさりながら歩くので、なかなか前に進めないというようなお人。
 鬼怒川への道すがら、私に「あなた、私の死に装束をお染めなさい!」と言い出した。「それも甕覗きでね。一回染めただけの薄い色じゃないわよ。本当の甕覗き。わかっているでしょうね!」と、怒ったようにおっしゃる。仕方なく、「わかりましたよ」とお答えはしましたが、染めると云うことは死ねとの事のようで、お約束は果たしておりません。
 「本当の甕覗き」と彼女の言った意味は、手間を掛けた色ということです。つまり、液の中に藍の色がほとんど無くなり、染まらなくなったそれに、何十回も入れて、ようやく染まった薄い青色ということ。
 
 「甕覗き」にたいしてもう一人、私が頷く解説をなさっているのが白州正子さんです。白洲さんに「美は匠にあり」(平凡社ライブラリー)という著書があります。その中の志村ふくみさんについてお書きになっている所に、藍染が出て来る。多少の記述の間違いはあるけれど、「甕覗き」についても書かれていました。
 
Photo_2
 
 「長い間使って、生命が終わる寸前に染めたものを『瓶のぞき』という。ほんの少し瓶をのぞいた程度に、そこはかとない浅黄に染まるからだが、実際にはもう力が尽きているため、二十回も瓶につけないと色が出ない」。と書いていらっしゃる。
 そして「本物の『甕のぞき』を、私はただ一度だけ出雲の旧家で見たことがあり、その澄みきった浅黄の色は、色というより匂いと呼んだ方がふさわしい心地がした」と(P122)。
 
 職人として技術的なことを申し上げれば、正藍染めの液は、灰汁がたっぷり入っていますが、若い内は藍がそれに負けない発色をする。年を取ると、色が付かず灰汁が付き、洗いが悪いと斑々となるだけでなくきたなく灰汁が残る。時間と回数を重ねれば重ねるほどそれは酷くなるわけで、きれいな薄い青色など、染まるわけもないのです。
 どうすれば良いかと言えば、甕覗きを染めようとして藍建てし、染め続け管理して行かなければなりませんし、それ専用の甕が要ると私は考えているのです。昔は時間があった。ご時世と私の現状がそれを許してくれません。私が「甕覗き」を染めたことが無く、その理由が「藍染めが生業だからです」と書いた所以です。
 しかし、世は変化も致しますから、甕覗きを染められる余裕が出来たら良いなと思う。
 
 「甕覗」には、「水の入った甕の、水面に映った空の色を覗き見た色」という解釈もあるらしいですが、これは、なるほどと思う。

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