答え(正藍染の人達へ)
例えば剣道は、練習(修行)をしなければ強くなれません。ギターもピアノも、練習しなければ弾けるようにはなりません。本染めの藍染め(正藍染)も同じです。
人間は産業革命以来、何事にも答えを求め、便利さを探求してきた。剣を持って一対一で殺しあうのは修行もいるし効率的ではないから、鉄砲を発明し、機関銃を発明し、大砲を発明して一遍に大量の人間を殺せるようになり、ついに原爆を発明した。
藍染めの化学建ても、その一環の中にあることを、人は知らなければならないと私は考えます。
【答え】(二年ほど前の記事の再録です)
かれこれ10年ほど前、藍染について「答えがあると思ってはいけない」と、ある人に云ったことがあります。微生物というのは、「答えを見つけた」と思っても、必ず裏切るからです。それが、醗酵の難しさだと私は思う。
例えば、灰汁やふすまや貝灰の使い方は、その時々で違う。ある時、私が貝灰を5kgほど足したら染液の調子が良くなった。しかし、これは答えではないのです。その時に、藍が何をどれくらい求めているかを、私が感じていたと云うだけのこと。この「感じる」という気付きは、修行によるのです。これを「勘」といっても良いかもしれません。勘は養うものですから修行が要る。
答えを求めると、勘は養えません。調子が良くない時に貝灰を5kg入れることを「答え」としてしまうから、5kg入れれば良いと結論付けてしまう。
しかし、それでも調子が戻らない時がある。それは、染液が別のものを欲しているからです。それを感じ取らなければなりません。
感じ取れなくなるのは、答えがあると思っているからですが、答えがある世界もある。それが、化学建てです。石灰や苛性ソーダでpHを調整し、染液の量に対して還元剤の量を決める。これは、必ず答え通りになります。考える必要がありませんから、楽です。
楽をおぼえると、それから抜け出せないのが人間です。それは私の短い65年の人生経験が教えてくれること。ですから、化学建てから本建てに移行するのは、別の修行が要ります。しかし、楽をおぼえると、その修行もできません。
ある日、私の工房に藍染の世界では著名な方がお見えになった。ドアを入った途端、首をかしげたので、「匂いだな」と直ぐに解かりました。私の工房には、いわゆる藍染の独特の匂いというものがありませんから。
藍の染液をお見せすると、「これは建ってないね」とおっしゃった。つまり、色が出ていないということです。染液の表面に、藍の華どころか、泡一粒もなかったからでしょう。布を染めて、色があることをお見せしました。

灰と灰汁もお見せして、私の藍建てと藍染のすべてをお伝えしました。するとその方は、「そんなに私に教えて良いのか」と尋ねましたが、正しいやり方が伝わるなら良いに決まっています。
それから7~8年経ちますが、その方が本建て本染めをしているという話は全く伝わってきません。私はそうなるだろうと思っていました。なぜなら、彼は楽をおぼえた人ですから。
私が「答えがあると思ってはいけない」と云った人も、同じです。
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コメント
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初めまして。定年延長終了を来年に控えているものです。来年から、会社勤めを離れ、何をしようとか考え、デジタルの工業から離れて、アナログの世界に無性に浸りたくなり、藍染めを栽培からやろうと決めました。
まず、苗を20株購入し、栽培を始めた所です。藍の記事を色々探しているうちにこのブログに出会い、『感じ取る』というこの内容に無性に同感してコメントを寄せたくなりました。
ピアノは子供の時に基礎をみっちり練習しました。途中でやめてしまったのですが、40歳から再開して、20年継続して練習しているうちに、単に上手くなる練習でなく、反復練習を無心に繰り返しながら、ある時点でこれだという音を出せる瞬間があることを経験しました。ピアノも、音を探るという練習になるのかもしれません。
おっしゃっていることが心に響いてきます。
藍の世界も今年から苗の栽培から初めて、毎年藍色を探り、20年くらいかかっても、これだという色を探って見たいと思い、始めたいと思っております。
まず、栽培から初め、染めとは何かを勉強し、生葉染めを段取りよくできるくらいになってから、体験会、貴社で実施されている講習会に申し込みたいと思っています。今の状態では全くの素人ですから、講習会に出席しても、ほかの方や、講師の方の足手まといになりそうですので、まずは入り口の所までは独学でもできるようにしたいと思っています。
今後、講習会を申し込み、教えを乞いたいと思っております。
何卒その時はよろしくお願いいたします。
投稿: GrandpianoC3 | 2018年4月26日 (木) 21時23分
「万難を排して」という言葉があります。人の決意を表す言葉でしょう。
「都合により」という便利な言葉もある。決意の薄弱さを語る言葉だと思います。
「言うは易く行うは難し」です。
投稿: 紺邑 | 2018年5月 5日 (土) 09時32分