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2018年6月 5日 (火)

藍染が存在する理由・意味などについて その1

 いつぞやNHKでインダス文明の史跡が紹介され、その中に藍染の工房があったそうで、なんと紀元前4500年も前だと云います。現存する藍染の布は、エジプトのミイラを包む麻布(マムミー布)で、紀元前2000年頃のもの。
 
 藍染が何故こんなに長い歴史を持つかといえば、人間が使い続けてきたからに他なりませんが、何故使い続けてきたかと云えば、人が生きる上で役に立っていたからでしょう。
 
  
 20年近くも前、私が修業をしていた父の工房に、大勢のお客様が見えられた。その中のご老人が訥々と以下のような話しを始められた。
 
 このご老人は、先の大戦で、インパール作戦に参加された。この作戦で帰ってきた日本兵は、一割から二割。戦死者数は七万を超えるという、無謀で悲惨な作戦でした。戦死者の大半は、病死や衰弱死だった。
 
 この方の部隊長が、戦地で全員に藍染の手拭いを配られ、「生水は飲むな。飲まなければならないときは、この手拭いで漉してから飲むように」と言われたそうです。結果、この部隊は唯一人の戦死者も出さずに帰ってこられた。
 
 「私が藍染の工房に来たのは、この話を伝えるためだ」と、このご老人は私におっしゃった。そして、「あなた達の仕事は、人の命を救うんだ。だから、この話を伝えて行って欲しい」とも。
 
 
 私の染めた藍染で、日傘を作っている職人がいます。それを日本橋三越本店で買い求めたお客様が次の日にまた入らして、「私の生涯で、これ程涼しい日傘に出会ったことがありません。母にもあげたいので、もっと良いのは無いかしら」と。その傘は綿だったので、絹を染めて日傘にして差し上げましたが、高価にはなった。
 藍染は紫外線を通さないと言います。だから砂漠の民は、藍染を頭から被り、ラクダを引いている。
 
 アリゾナの砂漠で半年暮らしている日本人が、帰国する度に私の藍染を買って下さる。どうしてか?と理由をお聞きしますと、「昼と夜の温度差が激しくて、何故か、お宅の藍染しか着られなくなっちゃった。快適です」と。
 
 
 名古屋の松坂屋本店で、90才になる完全な痴呆症の夫を抱えるご婦人が、「家(うち)の人は他のセーターを着せると『寒い寒い』っていうのに、あんたのところのセーターを着せると『暖かい暖かい』っていうの。不思議ね」とおっしゃった。何故か、涼しくて暖かいのが藍染です。
 
 
 古くから山陰では、赤ん坊が生まれると、母方の里から藍染の産着や湯上がりを送る風習があった。その名残りは今でもあるそうですが、藍染で赤ん坊をくるむことによって、肌荒れを防いだのでしょう。
 私が生まれた戦後直後も、着古した藍染の浴衣を潰しておしめにしていたのは、かぶれが無いからだと言われてきました。
 
 
 NHKが、父の工房から生放送したことがありました。勿論、全国放送です。その時、150年以上は経っている藍染の絣の野良着をお見せした。
 昔のものは洗濯板でごしごし洗ったでしょうから、絣の白いところは破れていますが、藍で染めたところは破れていない。何故破れないかといううと、藍染は、布や糸を丈夫にするからです。だから労働着に適しているわけで、野良着だしジーンズが藍染なのはそんな理由からでしょう。

Photo            栃木県足利市にあった父の工房で、染めた型染の反物を洗う父大川仁。
 
 
 藍で染めたジーンズは、ガラガラヘビ除けだと言われています。日本では手甲脚絆が藍染ですが、これはマムシ除けでもある。
 
 藍染の野良着の効用は、丈夫なだけではありません。汗疹にならない。だから、剣道着が藍染なのです。
 
 アトピー性皮膚炎の人が私の藍染を着ると、かゆみが和らぎ気持ちが良いとおっしゃるのは、肌を守るからなのでしょう。
 
 
 藍染は本来、こういう役割を持っていた。だからこそ、何千年という歴史を持つのだと私は考えています。
 
(つづく)

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