先回私は、「本染め(本来の藍染)の場合、手入れは滅多にしません」と書いた。上記と矛盾しますが、これは「本染め(本来の藍染)」の場合です。私の弟子や生徒の中では、是は常識。だから、染め液を放って置いて旅にも出るし、寒い間の半年間寝かせておいて、暖かくなってから染め液を起こして藍染めしている人も居る。
多くの藍染師は、毎日面倒をみて、毎日攪拌している。先日、私の弟子が訪ねた染め師も、今使っている藍甕を指さし、「もう少しで建て直しだから、ようやく旅行に行ける」と語ったと云います。それは何故かと言うと、手入れをしなければ色が出てこないからというのが最大の理由。手入れをして色を出す。
本染めは、何故手入れをしなくとも色が出るかというと、醗酵だからです。微生物が色を出してくれる。では、手入れをしなくてはならない藍染めはどうなのか?という問題になります。
藍の最大の特徴は、水に溶けない事。「藍は強アルカリ性の溶液に溶ける」という。だからpHの管理が必要で、適正pHにしなければならないと。そこで、毎朝pHを計り、なにがしかを使って適正pHにする作業がある。
しかし、江戸時代、またはそれ以前に、アルカリという概念もpHメーターもなかったのに、藍染めは盛んだった。当時の染め師が、pHを計っていたなどと言うことはないのに、藍染は染められていたわけで、事実、私はpHを計ったことはありません。
では「適正pH」の適正とは、何に対して適正なのか?それは、還元させるためです。
藍の染め液は、強アルカリ性であることと、染め液中に酸素がないという特徴がある。つまり、無酸素状態。本建ての場合は、微生物の力で無酸素状態にしている。酸化したものを元に戻すことを「還元作用」と言いますが、染め液から酸素を取り、無酸素にすることを「還元」と云うわけです。それが「還元」。
本来の藍建て(染め液を作ること)は、醗酵という微生物の作用で、結果的に還元させて染め液を作ります。その微生物を昨今は、還元菌などと呼んでいるようです。それらの菌に、適正pHなどありません。
還元させるためには、醗酵の力が絶対に必要だなんてこともありません。還元させるものを、染め液に入れれば、藍染めが出来ます。それが「還元剤」と云われるものです。
化学的な還元剤の代表的なものが、ハイドロサルファイトと呼ばれるもので、これが、藍染のあの強い臭気を出す元です。その他に亜鉛末がある。これが化学的な藍染めで、pH調整して還元剤を入れれば、直ぐに藍染めが出来るようになります。
還元剤にはその他に糖分や蜜などもあります。ブドウ糖、水飴、蜂蜜や廃蜜なども還元させるものです。
朝、染め液に色が無ければ、pHを調整し、これらを入れる。しかし、酸素をとるための酸素が液中に必要ですから、攪拌して空気を入れる作業が出て来る。朝とは限らず、染め終わってからも攪拌しなければならない。だから、旅にも行けなくなる。放って置けば、染め液は腐敗するでしょう(醗酵の染め液は腐敗しません)。
これが、手入れですが、醗酵とはなんら関係はありません。これらは麻薬のようなもので、簡単に染め液が生き返るために、手放せなくなるわけです。また、こういう還元させるものが、色落ち、色移りの原因にもなる。
もしかしたら次回につづく。
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